関数の極限の定義

https://schoolhmath.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

https://schoolhmath.blogspot.jp/2017/08/blog-post_17.html

 高校2年になり学ぶ「極限」は、微分の計算をする上で必要になった計算技術です。

 そのため、微分の計算を先にして、計算に困ったときに「極限」を学ぶという勉強スタイルでも良いと考えます。


そういう計算の役に立つように、頭を整理することが、極限を学ぶということです。


 高校2年の微分積分の勉強のためには、「やさしく学べる微分積分」(石村園子)を読むと、内容がわかり易くて良いと思います。その4ページには、ε-δ論法を使わないで、極限値を簡単に定義しています。

 

 高校生は、極限を学習する初めには、数列の極限を学ぶと思います。数列の極限を理解するために頼れる証明が済んでいる定理はなるべく多く用意して考えの支えに使うのが良いと思います。推薦できる高校数学の参考書:「生き抜くための高校数学」(芳沢光雄)の「数列の極限」は、その入門用のいくつかの定理が書いてあるので参考になると思います。

それを見た後で、ここをクリックした先の、数列の極限を詳しく書いてあるサイトの情報を参考にして、

その後に、数列の極限に係る多くの定理の情報を得るため、ここをクリックした先のサイトに数列の極限に係る定理の情報が多いので参考にしたら良いと思います。

 

 高校3年になって本格的に微分積分を学びたくなった学生は、学生が微分積分を無駄なく学べるよう工夫がこらされている本:小平邦彦「[軽装版]解析入門Ⅰ」を読むと、微分積分が無駄なく勉強できて良いと思います。その22ページに数列の極限値の定義が書いてあり、76ページに、ε-δ論法を使った極限値の定義が書いてあります。

 ただし、数列の極限値についての参考書は、高校生は、先ず、推薦できる高校数学の参考書:「生き抜くための高校数学」(芳沢光雄)の「数列の極限」に関する説明を読むのが良いと考えます。それを理解した後で、小平邦彦「[軽装版]解析入門Ⅰ」の22ページの数列の極限値の説明を読むようにした方が良いと思います。


関数の極限の定義は:

(1)第1の定義の極限:

開放された区間(a<x<b)の関数f(x)でxの右側極限と左側極限が一致する場合に極限があるものとする極限の定義。

(2)第2の定義の極限:

区間( a≦x≦b)の関数f(x)の、x=aとx=bとの区間の端点では、片側極限があるだけで、極限があるものとする極限の定義。

との2通りの定義があるので要注意です。

 

【区間の定義】

 区間」という数学用語は、実数の集合として定義されている用語である事に注意が必要です。

a≦x≦bを満足するxの区間という表現は、a≦x≦bの範囲内の全ての実数xという意味です。

-∞<x<∞という区間もあります。

区間はxの値の範囲を限定するためのa≦x≦bという式とは意味が異なることに注意する必要があります。

(A)「0≦x≦2の区間の変数xで定義された関数f(x)がその区間の各点で連続であるとき,f(x)は連続関数である」という文では、

f(x)は、0≦x≦2の区間で1つながりに連続した関数f(x)として定義されます。


一方で、

(B)「変数xの0≦x≦2の範囲内の値で関数f(x)が定義されていて、その関数f(x)が定義域の各点で連続であるとき,f(x)は誤解された連続関数である」という文では、f(x)は、例えば、

0<x<1で f(x)=0, この定義域内の各点で連続。

1<x<2で f(x)=1, この定義域内の各点で連続。

結局、0≦x≦2の範囲内の全ての定義域の各点で連続な誤解された連続関数f(x)として定義されます。

 この例の様に、「区間」という用語は変数xの集合をあらわす用語であって、変数xの範囲をあらわす用語では無いことに注意する必要があります。


 区間a≦x≦bが命題の中に記載されている場合は、その範囲内の全ての実数xについて命題を検討する必要があります。被積分関数f(x)が定義されていない変数xの点があっても、その点も、その命題が検討されるべき点の1つです。

 

《命題を検討すべき優先順位》

(1)関数f(x)を収める区間

a≦x≦b(あるいはa<x<b)内の全ての実数x。

(2)その区間内の座標xにおける点。

(3)その区間内で関数f(x)が定義されている(f(x)の値が存在する)変数xの範囲(xの定義域):

a<x<(b-(a+b)/2) という範囲を定義域とする事や、

その範囲内の有理数のxのみを定義域とする事。

 

です。

 区間について考えるという事は、その区間内の全ての実数の座標xの点を考え、その座標xでf(x)が定義されていない場合でも、その座標xについて考えるという事を意味します。

 区間を使って考える場合は、例えば、ある区間内の全ての実数の点のうち、関数f(x)が定義されず関数f(x)が連続で無い(数直線上の)点xについては、「区間内のその点xでf(x)が定義されず関数f(x)がその点xで連続していない」というふうに考えます。xの区間とは、そのようにして、関数の定義域よりも優先して考えるxの数直線上の、実数が隙間なく充填されている範囲の事です。

----------区間の定義終わり-------------

 

【直感的極限値

 関数f(x) において, x をx0 に限りなく近づけていくとき,

f(x) がある値C に限りなく近づくならば,値Cをx がx0 に近づくときのf(x) の極限値といい,

で表わします.


さて,ここで限りなく近づくというのはどういうことでしょうか.

x がx0 に限りなく近づくとは,

絶対値|x−x0| を限りなく小さくできるということと同じだと考えてもよいでしょう.

同様に, f(x) が値Cに限りなく近づくということも

|f(x) − C| を限りなく小さくできることだと考えてもよいでしょう.

 そこで,限りなく小さくできるということで考えてみると,以下の様に考えることができます。

《ε-δ論法(その1)》

(1)

 どんな小さな正の数 εを比較の相手と選んでも,|f(x) − C| をそれよりも小さくできるならば,
つまり、変数xの値がx0に近い全てのxの値のどれであっても漏らさず、ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値)に関して、
|f(x) − C| をεよりも小さくできるならば,

(2)

関数値f(x)の値のバラツキを漏らさず限りなく|f(x) − C| を小さくできるといえるのではないでしょうか.


 この考え方が数学でいうところの限りなく小さいということなのです.


 これを用いて関数の極限をもう一度定義します.

この定義はδ − ε 論法と呼ばれる証明法のもとになっていますが,難しく感じる人は,直感的極限値で十分です.


(注意)

 ただし、直感的極限値で考える場合でも、変数xの値がx0に近いどの実数にした場合でも、

(条件1)

f(x)が(無限大では無い)ある値Cに近づく事。

(条件2)

そして、x0に近いどの実数に対してもf(x)の値が定義されていなければならないという事が、

極限が存在するための条件であると認識しておいてください。

(注意すべき点)

 x=x0での関数f(x)の極限を求める場合、変数xの値がx≠x0となる値x0の近傍の範囲内の全ての実数ですきま無く関数値f(x)が定義されている関数f(x)についてのみ、極限が存在し得るものとして極限が定義されています。

【事例(ε-δ論法を先行して使う)】
以下の例の様に関数値f(x)が区間で定義されていない場合は、極限があるとは定義しません。
x=0,2,4だけで定義された関数f(x)の例:
f(0)=10,
f(2)=11,
f(4)=12,
この関数f(x)は、
どんなに小さい正の値εに対しても、
正の値δ=1を使ってxの範囲(区間では無い)を、
1.5− δ<x<1.5 +δ
に限定すれば、
その範囲内のf(x)の定義域のxの値は、x=2のみになる。
その全てのxの値(x=2だけですが)に対して、
-ε< (f(x)-11)<ε
が成り立つようにできます。 ε=1/10000という小さなεの場合でも上の式が成り立ちます。対象となるxはx=2しか無いからです。

しかし、そうであっても、f(x)はx=1.5で極限があるとは言えません。
極限がある場合は、区間
1.5− δ<x<1.5 +δ
内の全て実数に対して、f(x)の値が存在する事を要請しているが、関数f(x)はその条件を満足しないからです。


【極限が存在しないもう1つの例】

関数f(x)が、xが有理数の場合は

f(x)=x

であり、

xが無理数の場合は、

f(x)=100

とする関数がx=0での極限値を持つかどうかを考えます。


【解答】

自然数mで表す

x=1/m

を限りなく0に近づけて行くとき、

f(x)が限りなく0に近づきます。

しかし、

限りなく小さな値の無理数xに対して、

f(x)=100

になり、

その限りなく小さな値の無理数では、

f(x)は0に近づかないので、

f(x)は、

x→0の場合に、 f(x)→0となるとは言えません。

よって、この関数f(x)には、 x=0での極限値がありません。

(解答おわり)


(極限を考える場合の根本的な注意点)

 極限を、x0に近いどの実数に対してもf(x)の値が定義されていなければならない事は、極限の定義の姉妹にあたる関数f(x)の連続性の定義が、すなわち、変数xの値x0における関数の連続性の定義が、x0に近いどの実数に対しても関数f(x)の値が定義されていなければならない事と対応しています。


【ε-δ論法による極限の定義(その1)】

ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値)に関して、
任意の正の実数ε に対して,
0 < |x − x0| < δ となる全ての実数xに対して
(すなわち、x ≠ x0 であるxで、上式の条件を満たす全ての実数xについて)

|f(x) − C| < ε が成り立つように

正の実数δ が選べるならば,
(すなわち、その範囲の全ての実数xに対して、必ずf(x)が定義されていて、かつ、そのf(x)に関して上の式が成り立っているならば、)

である。

----極限の定義おわり---------

 

 ここで、極限を定義するε-δ論法(その1)が出て来ましたが、ε-δ論法というものは、εとδを使って極限を表現する手段であって、ε-δ論法を使った極限の定義は、上の形の表現に限られません。

後で説明する、区間の端では、片側極限について、上の表現とは形を変えた別のε-δ論法(その2)によって片側極限が定義されます。

 

-----(極限の定義を言い換えて定義を理解する)----

 大学1年生が、初めてこの極限の定義を学んだとき、定義の意味が分からず、微分積分学が分からなくなり脱落する大学1年生が多いらしい。


 この定義を理解するには、想像力を膨らませて、この定義を、以下の様に噛み砕いて自分の言葉で言い換えると、この定義の意味が理解でき、定義がすんなり覚えられるようになると思います。

 

先ず、以下の図のようなメチャメチャな関数f(x)で、ただ1つの点のx0=0の点で極限を調べる事をイメージしましょう。x0=0の点以外では関数f(x)が連続でも無いというメチャメチャな関数を考えます。

上図の様にメチャメチャな関数で、x=x0の近くの関数値は、任意のバラバラな数値で考えても良い関数を考えます。そのため、順次に取り出す関数値を、単なる数列の数値の順列と考えるのと同じになります。そして、数列の極限を考えるのと同じように関数の極限を考える事ができます。


(1)

どんなに小さな正の数 εを比較の相手と選んでも,

充分小さい正の微小量δを選べば、

ーδ<x-x0< 0 及び、 0<x-x0<δ

を満足するx0に近い、x0では無い全ての実数値のxを漏らさず調べた関数値f(x)が、

ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値:この値は複素数であっても良い)に関して、

全て、

|f(x) − C| < ε

を満足するということが、

関数f(x)にx0の極限値が存在するという事である。

その値Cを点x0での関数f(x)の極限値と定義します。


(1-1)

すなわち、関数f(x)の値が存在する変数xが、

x0に近いがx0では無い、x0に近い全ての実数xの範囲が、

言い換えると、

(A)充分小さい正の微小量δによる、

0 < |x − x0| < δ

となる範囲の全ての実数が関数の変数xの定義域に含まれている。

(B)また、上の式(満足させる目標をあらわす式):

|f(x) − C| < ε

を満足するある値C(εの値にかかわらず固定した値)が存在する。

ということが、

関数f(x)のx0の極限が存在するという事である。

(1-2)

 極限の定義において、xをx0に限りなく近づけてf(x)を考える際に、x0の点を除外して考えることが極限の概念の本質的な特徴になっていますもし、x0の点を除外しないで”極限”の有無を調べることにすると、それは、関数の”連続性”の有無を調べることになります。極限の概念は、関数が連続で無い場合も視野に入れた関数の特徴の把握のために、x0の点を除外して考えるという特徴を本質的に持っています。

 すなわち、関数f(x)の極限を求める点x0で関数f(x)が連続で無くても極限値が存在し得るのです。

 

(2)

 ここで、x0から、実数値δの範囲内でずれる、x0では無い全ての実数xについてf(x)を考えなければならない。

 この定義における「全ての実数x」の意味は、他の制限、例えば関数の変数の定義域を有理数だけに定めて定義域外の無理数の変数に対する関数値を考え無い事にしていても、その制限に制約されずに定義される全ての実数xを意味します。

(関数f(x)の変数xの定義域に制約されない全ての実数xを考えるということです)

(3)

その全てのf(x)の値(その値は複素数であっても良い)のバラツキの誤差を求める。

その誤差<εとするεでバラツキの範囲を定める。

(4)

(4-A)xの値のx0からずれる範囲の値δを十分小さくすれば、

その範囲内の全ての実数値のx(ただし、値x0は除外)によるf(x)の値のバラツキが小さくなり、

そのバラツキの範囲の値 ε は、

いくらでも小さな値εが得られる、

という条件が満足されるならば;

(4-B)また、そのどの実数値x(ただし、x≠x0)についても、

-ε< |f(x)-C|<ε

となる値C (この値は複素数であっても良い)が、どのように小さなεの値についても、

変わらない確固とした値で存在するならば;

その関数の値の極限が存在し、

その確固とした値C が極限値である。

----(定義の言い換えおわり)-----------

 

(疑問に思う点)

 そのある値Cをどの様にして見つけたら良いのだろうかという疑問がわくと思います。

ε-δ論法によって極限値を定義しても、ある値Cが分からなければ、極限値の存在が確かめようが無いのではないか。

ある値Cを仮定して、定義にあてはめても、ある程度小さいεまでは確かめられても、それ以降は、定義通りにならず、その値Cは、結局は極限値では無い事がわかるという事になるのではないか。

その極限値Cを確かめる試行錯誤を無限に繰り返せと言うのかといった腹立ちを感じるのではないでしょうか。


その疑問に対しては、以下の様に考えたら良いと考えます。

極限値Cを確かめるには、単に、xをx0に近づけて関数値f(x)を求めて行くだけで良いのではないか。

極限が有るか無いかの問題は、その方法で極限値を求める事ができる関数であるか、そうで無いかを判定できるだけで良いと考えます。

(A)先ず、その様にして求める事ができる極限値Cが存在する事が第1に必要な条件です。

(B)次に、その極限値Cが存在するとして、関数f(x)は、その極限値Cにどの様に近づいていかねばならないかの、関数の構造を知る事が第2に必要な条件と考えます。

極限が存在する関数が満足させるべき目標をあらわす式:

|f(x)-C|<ε,
を以下の様に変形して考えます。
-ε<(f(x)-C)<ε,
C-ε<f(x)<C+ε,
f(x)-ε<C<f(x)+ε,

この(満足させる目標をあらわす)式によって、ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値)が、関数値f(x)の誤差εの範囲で求められる事が、極限値Cが存在し得るという事です。

 

その誤差εは、xをx0に近づける事で小さくできれば、極限値Cが存在し得ると言えます。

すなわち、

0 < |x − x0| < δ
となる誤差δの範囲内の全てのxについて、
上の式が成り立ち、誤差δを小さくすればいくらでも誤差εを小さくできれば極限値Cが存在すると言えます。

 

関数の構造を調べるために全てのxについてのf(x)を考えるのが大変なので、以下の様に考えて関数の構造を調べます。

全てのf(x)のうち、
f(x)の上限値を求めf2とする。
f(x)の下限値を求めf1とする。

(端点が開放された区間では、開放された端点の近くで関数f(x)が上限値f2に限りなく近づくが決してf2になる事が無い事が起き得る事に注意する)
全てのf(x)について、
f1≦f(x)≦f2です。
そうすれば、全てのf(x)について満足させる目標が:
f2 -ε<C<f1+ε,
という関係だけを満足させる事を考えれば良い事になります。

 

(補足)

 ここで、想像力を働かせて、一番突飛な例を想像しましょう。

 例えば、誤差δを小さくすれば、f(x)のグラフの最大値 f2 がx0の左にあったり右にあったりし、x0の前後のxの順では、f1,f2の順になったり、f2,f1の順になったりする突飛な関数の事例を想像してイメージを膨らませましょう。

---補足おわり--------------

 

この(満足させる目標をあらわす)式

f2 -ε<C<f1+ε,

によって小さい値εの小ささの限界が決められます。
先ず、必須の条件に、
2ε>f2-f1
があります。

しかし、これだけでは、満足させるべき目標が達成できません。

そこで、
ε=(f2-f1)+(0+)
とすると、
f2 -ε<C<f1+ε,
は、
f1-(0+)<C<f2+(0+),
になり、また、以下の式にもなります。

f1≦C≦f2, 

 

極限値Cが存在する事を前提として考えて)この式は必ず成り立つ関係を表していると考えられますので、この式なら目標の式を満足させることができます。

(また、後で説明するように、この様に値Cのバラツキの範囲を定めるならば、数直線上の区間を考える場合、最小値f1と最大値f2を両端に持つ区間を、その区間の幅を無限に小さくしていくことができる関数の場合は、その幅を無限に小さくする各段階での値f1及び値f2とは独立した値の極限値Cが存在する事が証明できます。)
そのため、誤差εは、
ε=(f2-f1)+(0+)
に決めることができます。 

これにより、このε-δ論法による極限の定義は、

以下の定義と等価だと分かりました。

【等価な極限の定義】 

0 < |x − x0| < δ となる全ての実数xに対してf(x)の値があり

(すなわち、x ≠ x0 であるxで、上式の条件を満たす全ての実数xについて、必ずf(x)が定義されていて)

(A)

そのxの範囲内のf(x)の下限値をf1とし上限値をf2とするときに、

f2-f1をいくらでも小さくするxの範囲を定める正の実数δ を選べることができるならば,

(B)

f1≦C≦f2

となる値Cで、f2-f1を小さくする各段階でのf1及びf2の値とは独立して存在する値Cを見つけて、その値Cを極限値と定義する。

そして、

と記述する。

----等価な極限の定義おわり-------


誤差εをどんどん小さくしていっても、
0 < |x − x0| < δ
となる範囲内の全てのxの関数f(x)の上限値f2と下限値f1が、
δを十分に小さくすることで、f1とf2の差が十分小さくなるなら、そのf1とf2の間に求める極限値Cが存在すると言えると考えます。
そのように、f1とf2の差をどんどん小さくしていくことができるならば、
xをx0に近づけて関数値f(x)を求めて行くだけで、
極限値Cが求められると言えると考えます。

 

極限値Cの存在の証明)

 なお、このようにxの範囲の幅のδを小さくしてxの範囲の領域の幅を無限に小さくし続けて、その範囲内の関数f(x)の下限値f1と上限値f2を求めて、Y=f(x)の区間で、f1とf2を両端に持つ区間を考え、そのY座標でのf1からf2までの区間の幅を無限に小さくし続けることができるなら、その場合に、そのY座標の、f1からf2までの区間が、1点の極限値Cに収束する事が証明できます(ここをクリックした先の定理18)。 

 

 このように、f1とf2の差≒ε がいくらでも小さくできる条件が成り立つならば、関数f(x)の値が極限値Cに近づいていき極限値Cが求められるので、これによって、極限値が存在する条件が正しく表わされている様に思います。

 

(注意)以下の様なメチャメチャな関数の場合:

xをx0の近傍の誤差δの範囲に近づけて、その範囲内の全ての関数値f(x)の上限値f2と下限値f1を調べるので、作業量はとても多い大変な作業が必要です。

 ただし、その作業量の多さは、元のε-δ論法でも、xをx0の近傍の誤差δの範囲に近づけて全ての関数値f(x)で|f(x)-C|<ε を調べる作業量も同じ多さです。

 極限値Cの定義は、最悪なメチャメチャな関数の極限値を求める場合を想定した場合の極限値の求め方をあらわしたものであって、現実的な素直な関数の極限値Cの求め方を表したものでは無かったのです。

 素直な関数ならば、上限値f2と下限値f1を求めてから極限値Cを求める作業は比較的楽になると思います。

 

(注意)

 ここで、極限を定義するε-δ論法(その1)が出て来ましたが、ε-δ論法というものは、εとδを使って極限を表現する手段であって、ε-δ論法を使った極限の定義は、上の形の表現に限られません。

後で説明する片側極限についても、上の表現とは形を変えた別のε-δ論法(その2)によって片側極限が定義されるのです。


(極限の定義の第1のポイント)

 上のε-δ論法による極限の定義の第1のポイントは:

「f(x)の値のバラツキを表す正の数ε をどれだけ小さくしても,関数値f(x)を必ずそのバラツキ内に漏れなく入れることができるx0に近い実数xのバラツキの範囲を表す正の値δが必ず存在することである。


すなわち、その正の数εのバラツキ内に関数値を漏らさず入れる、x0に使い全ての実数xの範囲を

0 < |x − x0| < δ

とする正の数δ が必ず存在すると言うことである。

 

0 < |x − x0| < δ の条件を満足する全ての実数xに関してf(x)の全てにおいて、条件を満足するならば、

という説明が隠れて入っているので「全て」というキーワードを忘れないようにしましょう。


この極限の定義は、関数f(x)がx0の近くの全ての実数xに対して関数値が定義されている関数でなければならないという事を前提にしています。

関数f(x)が有理数のxに関して定義されていても、無理数のxに関して定義されていなければ、関数f(x)には極限が有りません(極限が定義できない)。

 

(極限の定義の第2のポイント)

 上のε-δ論法による極限の定義の第2のポイントは、

x→X0を、

0 < |x − x0| < δ

すなわち、x ≠ x0 の場合に)

と定義し、

一方で、

f(x)→Cを、

|f(x) − C| < ε

(すなわち、f(x) = Cの場合を含む

と定義して

極限を定義していることです。

これにより極限の意味を明確にしていることです。

すなわち、

x→x0 (x≠x0となる場合のみ)と、

f(x)→C (f(x)=Cとなる場合も含む)は、

同じ「→」であらわしていても、

意味が異なっていることを明確にしています。


【問題1】

関数f(x)は、整数mと、0以外の整数qに関して、

有理数x=m/qの場合に、

f(x)=0

となる関数である。それ以外のxの場合にこの関数f(x)は値を持たない。

この関数f(x)は、

x→0における極限値を持つか?


【解答】

 この関数f(x)の値を与える有理数x=m/qが何であっても、その有理数xの値より0に近い無理数yが必ず存在する。そして、その無理数yに対して値f(y)を持たない。

よって、この関数f(x)は、xを限りなく0に近くしても関数値が定まらず、極限値が存在しない。

(解答おわり)


《ε-δ論法(その2)》

(右側極限値と左側極限値

 また、以上で説明したε-δ論法(その1)による極限の定義によると、変数xの値が、x0から微小な値 δ 以内の誤差の全ての実数xの値に対してf(x)が定義されていなければ、x0で関数f(x)の極限値が存在しない。


 そのため、関数f(x)の変数xの実数の定義域の境界x0 では、


x0から微小な値 δ 以内の実数の領域の半分が関数f(x)の定義域からはみ出して、定義域内に存在しないので、定義域の実数の境界x0 では関数f(x)に極限値が存在しないことになってしまいますが、以下の第2の定義(ε-δ論法(その2))の様に、閉区間の端点での極限値の定義を修正し、閉区間の端点で極限値がある、と定義します。


(第2の定義の極限の条件)

関数f(x)が、a≦x≦bで定義されている場合、

そういう区間(a≦x≦b)で定義された関数f(x)の端点については、以下の条件を満足する左側極限値、または、右側極限値が存在すれば、その端点で極限があると定義されています。


(1)左側極限値

どんなに小さな正の数 εを比較の相手と選んでも,

充分小さい正の微小量δを選べば、

ーδ<x-b< 0

を満足するbに近い全ての実数値のxが、

ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値)に関して、

|f(x) − C| < ε

を満足するということが、

関数f(x)のbの左側極限が存在するという事である。

その値C =f(b-)

とあらわす。

この極限を、

x → b− 0 またはx → b−

のとき、

f(x)→ f(b-)

であると表現する。

f(b-)が存在するならば、端点bで関数f(x)に極限値があると定義します。


(2)右側極限値

どんなに小さな正の数 εを比較の相手と選んでも,

充分小さい正の微小量δを選べば、

0<x-a<δ

を満足するaに近い全ての実数値のxが、

ある値C(その値Cは、εの値によらない固定値)に関して、

|f(x) − C| < ε

を満足するということが、

関数f(x)のaの右側極限が存在するという事である。

その値C =f(a+)

とあらわす。

この極限を、

x → a+ 0 またはx → a+

のとき、

f(x)→ f(a+)

であると表現する。

f(a+)が存在するならば、端点aで関数f(x)に極限値があると定義します。

 

【等価な片側極限の定義】

 上に記載した片側極限(のうちの1つ)を、以下の、等価な定義であらわすこともできます。 


0<x-a<δとなる全ての実数xに対してf(x)の値があり

(すなわち、x < aであるxで、上式の条件を満たす全ての実数xについて、必ずf(x)が定義されていて)

(A)

そのxの範囲内のf(x)の下限値をf1とし上限値をf2とするときに、

f2-f1をいくらでも小さくするxの範囲を定める正の実数δ を選べることができるならば,

(B)

f1≦C≦f2

となる値Cで、f2-f1を小さくする各段階でのf1及びf2の値とは独立して存在する値Cを見つけて、その値Cを極限値と定義する。

そして、

x → a+ 0 またはx → a+

のとき、

f(x)→ f(a+)=C

と記述する。

----等価な片側極限の定義おわり-------

 

  極限値が存在しない点が有限個ある関数)

 以下の図の関数f(x)のグラフを考えます。

(その1)この関数は、xの定義域をー100から100までで考えると:

x=0の点での極限とx=2の点での極限が存在しません。

x<0で、x→0とすると、f(x)→0になり(左側極限値

x>0で、x→0とすると、f(x)→1になります(右側極限値

関数の定義される領域の端点以外の点で、左側極限値と右側極限値が一致しない場合は、極限値が存在しません。


(その2)この関数は、xの定義域を0から2までで考えると:極限の第2の定義を適用し:

区間 0≦x≦2

において、その端点x=0もx=2も、片側極限が存在するので、端点での極限が存在し、閉区間全体で極限が存在します。


(注意)上で説明した、その1とその2の関数は定義域が異なるので異なる関数です。

異なる関数ですので、その1とその2で、x=0及びx=2の極限の有無の判定が異なっても、問題ありません。


関数の極限値が存在しないもう1つの例として、以下の図の関数 Y=sin(1/x) は

x→0で

Yの極限値が存在しません。

(この関数Yは、x→0において、ー1から1まで振動し、安定しません)

極限値が存在しない点が無限にある関数の例)

 例えば、xが有理数の場合のf(x)の値とxが無理数の場合のf(x)の値が1以上異なるような関数には極限が存在しません。

どの位置においても関数の極限値が存在しない関数は、例えば下のグラフの関数のようになります。

極限値が存在しない点が無限にあるが積分可能な関数)

上図のノコギリ関数g(x)を使って以下の関数を作ります。

この関数は、以下のx座標で極限が存在しない。

その他、

x=奇数/(整数×2)

の点では極限値が存在しない。


《下図に各種の関数の集合の包含関係をまとめた》


【問題】

「下図の様に、線を曲げて上下に段差があるグラフを作る。

そのグラフの段差の間隔を、先のグラフの間隔より狭めて変形したグラフを作る。

この作業を無限に繰り返して段差の間隔を無限に狭めたグラフの関数f(x)を作ったら、そのグラフは段差の部分で連続か否か?」

(問題おわり)


という問題を問われたら、

「 いや、そうなったら、それは、もはや、その無限にグラフの段差を狭くしている点x=0で、グラフの極限が存在しなくなりグラフが不連続になります。」(事実はこの通りですが)

と即答できるでしょうか。


 こういう問題に論理的に(数学的に)返答できるようにするため、極限を厳密に定義したのです。


【解答】

上図の様に、x=0でのグラフの段差を無限に狭くしたら、

(1)

 どんな小さな正の数 εを比較の相手と選んでも,

|f(x) − 0| < ε

とできるような、x0に近い実数xの範囲が存在しない事が以下の様にして証明できます。

(2)

以下の式で定義する実数xの範囲δをいくら狭くしても、すなわち、

0 < |x − x0| < δ となるxの範囲をいくら狭くしても、

上のグラフの関数f(x)の段差が無限に狭くなって、

0 < |x − x0| < δ となる範囲内にグラフの段差が包含されてしまいます。

(3)

グラフの段差が、

0 < |x − x0| < δ となるxの範囲内に包含される結果、

その範囲内のxに、

|f(x) − 0| の大きさが段差の高さ(の半分)くらい大きいxの値があります。

それゆえ、そのxの値では、小さな正の数 εによって、

|f(x) − 0| < ε

とする事ができません。

そのため、x=0で極限が存在しません。 極限が存在しないので、極限を使って定義した連続性も無く、この関数はx=0で不連続になります。

(解答おわり)


リンク:

高校数学の目次

 

合成関数の微分の公式の分かり易い証明

https://schoolhmath.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

https://schoolhmath.blogspot.jp/2017/08/blog-post_17.html

微分積分」の勉強

(5)微分の知識の整理

の章に入ります。


 高校生が数学の学習から脱落する:

高校2年生から、極限・微分積分の「意味がわからない」「つまらない」「教わる計算方法が正しいと言える理由(証明)がわからない」で数学の学習から脱落する高校2年生が多いらしい。

 その脱落の原因は、どうやら、合成関数の微分の公式らしい。

 

 高校3年の教科書の合成関数の微分の公式の証明が間違っているのと、

 高校2年に微分を教える際に合成関数の微分の公式を教えない教育が1955年ころから続いているのと、

それと、合成関数の微分の公式の表現そのものが、異なる関数を同じ記号で表す混乱があり、また、関数と関数の値とを区別しないことで、学生が覚えたばかり関数の定義を否定するちゃぶ台返しで関数の定義をひっくり返していること等が、

微分の意味がわからない」原因になっているのではないかと考えます。

 

 それらの間違いを正すことで、数学の学習から脱落する者を減らすため、 合成関数の微分の公式を高校教科書よりも正確に証明します。

(大学1年生向けの参考書:例えば:「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円 の証明は間違いが無く、高校2年生が初めて微分積分を勉強するのにも、適切な参考書だと思います)

 

(合成関数の微分の公式の概念)

以下の関数のグラフの概形を素早く求める方法を考える。

 

《このグラフの概形》
(1)

x→±∞のとき、このグラフが、

0に収束することが想像できます。
(2)

x座標の正負反転で対称なグラフであることも想像できます。
(3)

x=0のとき、
y=1
になるグラフであることも想像できます。


(4)

x=0でのグラフの傾きを、以下の様にして想像できます。

x→Δxのとき、すなわち、xが0に近いとき:

の値が1からほとんど変わらないと考えられます。

それにより、
x=0でのグラフの傾きΔy/Δxは0であると想像できます。

 ここで、そのようにグラフの傾きが想像できるのは、このグラフの式を媒介する

という関数と、xの大きさを比べると:xが0に近いΔxになるとき、

は0に収束するからです。

このように、「グラフの式を媒介する関数」という概念が考えられます。

 以上の

のような、微分を媒介する関数を考えて微分の計算ができます。この様な、「微分を媒介する関数」の概念を数学的に整理すると、合成関数の微分の公式に導かれます。

 

【定義】

 合成関数の微分の公式は、以下の式で表現すると、正確、かつ、分かりやすく定義されます。

合成関数の微分の公式は、以下の様に微分の計算を楽にするときに使う公式です。

(合成関数とは)

 そもそも、「合成関数」とは何なのか、という問題があります。

 

微分積分学入門」(横田 壽)の21ページ近くに、合成関数の定義が書いてあります。

(注:横田教授が芝浦工業大学を退官したため、この教科書を無料で掲載するWebページがここをクリックした先のサイトに移動しましたこの本は書店で購入できます。

 

それ以外に、高校2年生が勉強するのに適切な、書店で購入できる微分積分の参考書は:

「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円

が内容がわかり易くて良いと思います。

 

合成関数(composite functions)
 関数どうしのつなぎ方として,
合成法則(composition) とよばれる方法について考えます.
まず, f(x) とg(x)2 つの関数を用意します.
次に任意のx に対して規則g を用いて1 つの実数g(x) を取り出します.
もしこのg(x) が関数f(x) の定義域に入っていれば,
規則f を用いて1 つの実数f(g(x)) を取り出すことができるでしょう.
ところで,この実数f(g(x)) は何なのでしょうか.
もしg(x) の値域がf(x) の定義域に含まれていれば,
g(x) の定義域内の各数x に対して, f(g(x)) を作ることができます.
これはg(x) の定義域内の各数x に対し,ただ1 つの実数f(g(x)) を定める規則と考えられます.
よってこの規則をf とg の合成関数(composite function) といい,
f ◦ g で表わすと(f ◦ g)(x) = f(g(x)) となります.

 

以下の合成関数の微分の公式:

は、関数f(g)とg(x)があり、その関数の合成関数の、

y=f(g(x))=h(x)

という関数を作った場合に、

変数xのある値xにおいて、変数gの値が定まり、

それらの各変数の値において、

f’(g)=(df/dg)と、

g’(x)=(dg/dx)との積が、

h’(x)=(dh/ dx)になる、

という公式です。

(変数の他の値の場合については、その変数値毎に考察する公式です)

 

どの関数f(g)とg(x)を使って合成関数を作っても、公式の成立条件が満足されれば、公式が成り立つ、という公式です。

 

この公式には一定の縛り(成立条件)があります。それは:

(1)その変数の値gに対して、(dh/dg)=f’(g)の有限の値の確定した値の微分係数が存在し(微分可能)、

(2)その変数の値xに対して、(dg/dx)=g’(x)の有限の値の確定した値の微分係数が存在する(微分可能)、

であるという前提条件です。

 

「関数が微分可能(有限の値の確定した値の微分係数が存在する)」

という意味は、

「関数が、その変数のその値に限って、その変数で微分可能であれば良く、その変数のその他の値での関数の微分可能性は関係しない」

という意味です。

 

(問題がある公式の表現)

(式1):

    

には、以下の問題があります。

(1)右辺のdhの表現には、dhが関数値h=f(g)と表すことができる関数fの関数値の変化量をあらわしているという、公式が対象にする関数fが存在するという大前提の情報が式に含まれていないのが問題です。

 

右辺の(dh/dg)は、 h=f(g)の関数f(g)をgで微分するという意味です。

(dg/dx)は、 g=g(x)の関数g(x)をxで微分するという意味です。


(2)また、式1の左辺のdhの表現には、dhが、公式が対象にする大前提の合成関数の関数h=f(g(x))=h(x)の変化量を表しているという、公式が対象にする合成関数hが存在するという大前提をあらわす情報が含まれていないこと。

という問題があります。

 

 そのように、合成関数の微分の公式が個々の関数に係る公式であるという、関数の情報が式1には含まれていないため以下の問題を生じます。

すなわち、この公式で、hx座標平面上の2つのグラフの微分係数を表現しようとすると、

その2つのグラフのどちらの微分係数も、

(dh/dx)という同じ式であらわすしか無いというおかしな事態が生じてしまいます。

式1では、(dh/dx)がその2つのグラフそれぞれのh座標(関数の値)の変化量を表すという情報が顕わには分からないという問題があります。

 

 このように、変数を変換する前の関数と後の関数を同じ記号hで表す違反があり、また、対象にする関数の情報も含まれていないので、式が分かりにくく、

「意味不明だ」「疑わしい公式だ」と言われるかもしれませんが、、、

関数の出身元(関数値)を見やすくするために、関数の定義の違反を犯ししてでも同じ記号を使う表現を容赦して欲しいと思います。

 

(しかし、この表現によって、関数が、変数と関数値の間の関係を表すと教わったばかりの学生に対して、合成関数の微分の公式を教えるこの場で、関数が、あたかも関数値で定義されるような、関数について教わった定義を否定するような事を教えることで、合成関数の微分の公式が分からないのと同時に、ちゃぶ台返しによってひっくり返された、関数の定義もわからなくなる、という弊害があるかもしれません。)

 

 合成関数の微分の公式は、関数の間の関係を表す公式です。そして、合成関数の微分の公式の微分の式で使う全ての変数yやxやその他の媒介変数g同士は、必ず、その変数を他の変数であらわす不変な関数で結ばれているという大前提があります。

その関数はどの式であっても良いですが、計算の途中で変化することが無い、いつも変わらない関係式であることが微分の計算の大前提です。

 

合成関数の微分の公式が分かるために、以下のように、

ごまかしが無い正しい証明をすることで、合成関数の微分の公式の例外が出る条件がはっきりし、合成関数の微分の公式の意味が分かるようになります。

 

(証明開始) 

合成関数の微分の公式を以下の式で表すことにします。

この式で、左辺のhは、

h=f(g(x))=h(x)という合成関数をあらわしています。

また、右辺の導関数

のhは、

h=f(g)という、左辺の関数hとは異なる関数をあらわしています。

 

(1)先ず、h=f(g)をgの関数と考え、hはgが変化したときにどのくらい変化するか調べるため、h=f(g)をgで微分する。

h=f(g)がgで微分可能

(関数fの関数値hの微小な変化量をΔhであらわし、関数fの変数gの微小な変化量をΔgであらわしたときに:

(Δh/Δg)の極限が有限の値になる)

なら、

Δhが以下の式に近似できる。

(Δgが0に近づくと正確に成り立ちます)

(2)その場合に、変数xの変化の結果変化する合成関数f(g(x))の関数値の微小な変化量Δhに関して、以下の式が成り立つ。

(証明おわり)

 

(簡単でわかり易い証明)

 「微分積分学入門」(著者:横田 壽)の75ページ近くに、もっと鮮やかな合成関数の微分の公式の証明を見つけました。それは、以下のようにする証明です。

(証明開始)

「h ≡ f(g)のgによる微分が存在し(確定した有限値になる)、

g(x)のxによる微分が存在する(確定した有限値になる)」場合:

 (証明おわり)

 

以下の様に、ΔxからΔg、次にΔhを見積もることで証明する方法もあります。
(証明開始)

(証明おわり)

(補足1) 
 合成関数の微分の公式は、以下のように式の項を作っている関数のかたまりを微分を仲介する変数にして、その変数で微分して、後で、その関数のかたまりを微分するという計算を可能にします。

(検算)この答えが正しいか否かを、以下のグラフを思い描いて確認してください。

想像したグラフの傾きがマイナスであることと、微分計算結果の式がマイナスになることが一致しているので、この計算結果が正しそうだと確認できました。
(検算おわり)

 合成関数の微分の公式を使うことにより、微分の計算がだいぶ楽になる。合成関数の微分の公式は、微分の計算にとって、生物が必要とする空気のように必要な公式です。

(補足2)
 この合成関数の微分の公式には縛り(成立条件)があります。
それは、
「h ≡ f(g)のgによる微分が存在し(確定した有限値になる)、
g(x)のxによる微分が存在する(確定した有限値になる)」
という前提条件です。

---(定義2.1 「微分積分学入門」(横田 壽)67ページ---
関数f(x) がx0 を含むある区間で定義されているとき,極限値

が(有限な値で)存在するならば,
関数f(x) は, x = x0 微分可能(differentiable) であるといいます.
また,この極限値A を点x0 における微分係数といい,

で表わします.
-----(定義おわり)---------------------------

この、有限の微分係数が(有限な値で)存在する(微分可能)という前提条件は、いわば、
「式を0で割り算する計算をしてはいけない」
という計算の縛りと同じ様な意味を持っています。

 すなわち、「微分可能」という前提条件は、
「0で割り算しない場合に限る」という前提条件 、
言いかえると、
「計算の違反が無い計算に限る」という前提条件、
を加えて微分の式を書くことです。

 そういう「万能の条件」を正しく組み込んで計算するならば、計算の自由度が高くなります。
 『合成関数を構成する2つの関数が何れも「微分可能=微分係数が有限の確定値になる」であるように関数の変数の定義域を定める』という前提条件付きで、パラメータ関数 g(x) や s(x) を自由に選ぶことができます。

その様に計算の自由度を高くするから合成関数の微分の公式が成り立つのだと考えます。

【合成関数の微分の事例】

(事例1)

以下の様に、変数xでの関数 f(x) の微分を、媒介変数tを表す関数g(x)を用いて、関数h(t)と関数t=g(x)とを合成してあらわす場合を考えます。

この関数g(x)は、Xが0より小さい定義域の場合と0より大きい定義域の場合とでは、関数を表す数式が異なる事に注意してください。

(この様に関数は、定義域毎に数式を選んで定義します)

関数 f(x)は、この関数g(x)と以下で示す関数h(t)の合成関数です。

関数 h(t)は、以下のグラフで表せます。

 合成関数の微分の公式を利用して、この合成関数h(g(x))を変数Xで微分する場合に、x=0でt=g(0)=0の場合には、関数h(t)は微分可能ではありません。

そのため、x=0でt=0の場合には、合成関数の微分の公式が適用できません。

それゆえ、x=0でg'(0)=0ですが、そのg'(0)=0がh'(t)に掛け合わされる事は無く、

合成関数の微分の公式で適用可能な条件を満足する場合での微分結果は、いつでも1になります。

(事例1おわり) 

 

微分可能で無いとき起きる不思議な現象】
  合成関数の微分の公式の意味が分かりましたでしょうか。
 次に、合成関数の微分の公式に関連することとして、以下の2つの注意の事例にあるように、「2つの接するグラフが接点における等しい微分係数を持つ」ことが、グラフの座標変換によって変わってしまう、2つのグラフの接触点での微分係数が等しく無くなることが有り得ます。

 そのようにおかしな事が起きても、それは、合成関数の微分の公式が間違っているわけでは無く、それは微分の本質的な問題であると正しく認識して下さい。
 合成関数の微分の公式が成り立つ範囲では、その様なおかしな事は起きません。そのため、合成関数の微分の公式の適用範囲が、すなわち、おかしな事が起きない、計算の秩序が守られる範囲を定めているとも言えます。

 その現象が起きたとき、合成関数の微分の公式の前提条件である「微分可能」が成り立っていないので、合成関数の微分の公式の適用範囲の外で、そういう不思議な事がおこります。

(注意1)
以下の2つのグラフが、x=0で微分係数が等しいです。

この場合、合成関数の微分の公式によって、これらの関数を他の変数tで微分した微分係数も等しくなるでしょうか。

以下で、この合成関数を詳しくしらべてみます。
xのtによる関数を以下の式で定義してみます。

グラフの関数を変数tであらわす各関数を計算します。



この様に、変なグラフが出てきました。

このグラフが出て来る意味を詳しく理解するために、合成関数の微分の公式を適用して各関数の微分係数を計算してみます。



x=0の場合に、(dx/dt)の値が有限で無いので、
xがtで微分可能ではありません。
そのため、合成関数の微分の公式の適用外になります。
x=0の場合に、合成関数の微分の公式は0に無限大を掛け算する計算になっています。

x=0で、両関数の微分係数が同じであっても、
その場合に合成関数の微分の公式が適用できないので、
x=0で、両関数の微分係数(dy/dt)は、
合成関数の微分の公式は両関数の微分係数が等しくなることを保証しているわけではありません。
(合成関数の微分の公式から受ける印象が私たちを裏切っています) 

一方、x=0で、これらの合成関数は、上図のグラフのようにしっかり定義されていて、x=0においても微分係数が定義できています。
そして、x=0で、両関数の微分係数(dy/dt)が異なっています。

 なお、ある変数の値において公式が適用できない関数を含む場合の合成関数の微分の公式は、
公式の適用条件の「各関数の微分可能性」が守られている変数の値の範囲内ならば、その値がどの値の場合においても成り立っています。
例えば、変数xが以下の図の関数で変数tに変換される場合:

この図の関数は、x=1に対応するt=0では微分不能ですが、x=0に対応するt=-1では微分可能ですので、t=-1では、合成関数の微分の公式が成り立っています。
この関数によって、先のXY平面上でx=0の点で接する2つのグラフは、tY平面上に写像したグラフにおいても、グラフが共通の点を持つt=-1の位置において、2つのグラフは同じ微分係数(dy/dt)を持ち、その点で接しています。

(注意2)
以下の曲線と直線が、x=1の点で接しています。

その接点で曲線と直線の微分係数が等しいです。
このグラフの座標系を以下の様に変換していきます。

上図には、2つのグラフそれぞれに対して、dz/dxの式を記載しました。
dz/dxは、各グラフ毎の、zを与える関数(z=f(x)やz=p(x))を変数xで微分することを表しています。
そのため、グラフ毎に異なる2つの式の、dz/dx=f’(x)と、dz/dx=p’(x)の式があります。


ここで、以下のグラフの関数で、変数xを変数tに変換します。

 

こうして、当初の曲線と直線が、上図の折れ線と直線に変換されました。
この折れ線の折れ点では微分が不可能です。
合成関数の微分の計算では、その点でds/dtが有限な値では無いので、その点では合成関数の微分の公式が適用できません。
そして、折れ線では、折れ点で微分係数が存在しません。
(そもそも、折れ線の左右の微分係数がー1と1という異なる微分係数の値を持っていますので、折れ点では微分係数が定まりません)

折れ点で折れ線とz=0の直線(微分係数dz/dt=0)とが接触していますが、折れ点の微分係数がそれと同じであるとは言えません。

 この例では、当初は接触点において微分係数が等しかった2つのグラフが、座標系を変換して形を変えた2つのグラフに変換すると、その接触点で、微分係数が異なるグラフに変わりました。

(合成関数の微分の公式の本質)
 合成関数の微分の公式の本質は、

が成り立つことにあるのでは無く、以下のことが、本質ではないかと考えます。

(1)上の式の関係は通常は成り立っているものと考えるが、
(2)その式が成り立たない場合があることを、合成関数の微分の公式が示している。
その問題を生じる必要条件は、上式の各微分係数要素(導関数要素と呼ぶ)の中に、微分可能で無いものがあること(有限の値に確定した微分係数を持たない)
(問題を生じない十部条件は、全ての導関数要素が微分可能であること)
であることを、合成関数の微分の公式が教えている、
と考えた方が良いと思います。

例えば、変数xで表される2つの関数y1とy2があって、
変数xのある値x0における、2つの関数y1とy2のxによる微分係数が、

という式であらわされて、等しかったとします。
このとき、他の変数tで微分した場合に、

が成り立つと普通は考えますが、それが成り立つための1つの十分条件は、

という合成関数の微分の公式に記載されたその他の導関数要素であるdx/dtが、x=x0の点において微分可能であることである。

これが、合成関数の微分の公式の本質ではないかと考えます。


なお、種々な証明方法の参考には、
「合成関数の微分の公式の種々の証明」のページを参考にしてください。


リンク:
高校数学の目次

合成関数の微分の公式の種々の証明

(注意)

 このページは、初めて合成関数の微分の公式を学ぶ者にとって内容が多くなり過ぎました、そのため、この内容を短くしたページを作りました。

初めて合成関数の微分の公式を学ぶ人は、ここをクリックした先のページを先に見てください。

その後で必要があれば、このページに戻ってきてください。

 

(ページ内リンク先)

▽はじめに

▽合成関数の微分の公式の概念

▽合成関数の微分の公式の定義

    ▽合成関数とは

    ▽合成関数の微分の公式の意味
▽合成関数の微分の公式の本質が見えない形の表現の問題
▽合成関数の微分の公式のごまかしが無い証明
  ▽簡単でわかり易い証明
  ▽完全な証明
  ▽間違えやすい証明

   ▽公式の成立条件
  ▽媒介変数を利用した証明
▽合成関数の微分の事例

   ▽(事例2)どんな関数を使っても合成できる
▽微分可能で無いとき起きる不思議な現象
▽合成関数の微分の公式の本質

(はじめに)

(5)微分の知識の整理

の章に入ります。

 

 高校生が数学の学習から脱落する:

高校2年生から、極限・微分積分の「意味がわからない」「つまらない」「教わる計算方法が正しいと言える理由(証明)がわからない」で数学の学習から脱落する高校2年生が多いらしい。

 その脱落の原因は、どうやら、合成関数の微分の公式らしい。

 

 高校3年の教科書の合成関数の微分の公式の証明が間違っているのと、

 高校2年に微分を教える際に合成関数の微分の公式を教えない教育が1955年ころから続いているのと、

それと、合成関数の微分の公式の表現そのものが、異なる関数を同じ記号で表す混乱があり、また、関数と関数の値とを区別しないことで、学生が覚えたばかり関数の定義を否定するちゃぶ台返しで関数の定義をひっくり返していること等が、

 微分の意味がわからない」原因になっているのではないかと考えます。

 

 それらの間違いを正すことで、数学の学習から脱落する者を減らすため、 合成関数の微分の公式を高校教科書よりも正確に証明します。

(大学1年生向けの参考書:例えば:「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円 の証明は間違いが無く、高校2年生が初めて微分積分を勉強するのにも、適切な参考書だと思います)

 

《合成関数の微分の公式の概念》

以下の関数のグラフの概形を素早く求める方法を考える。

 

《このグラフの概形》
(1)

x→±∞のとき、このグラフが、

0に収束することが想像できます。
(2)

x座標の正負反転で対称なグラフであることも想像できます。
(3)

x=0のとき、
y=1
になるグラフであることも想像できます。


(4)

x=0でのグラフの傾きを、以下の様にして想像できます。

x→Δxのとき、すなわち、xが0に近いとき:

の値が1からほとんど変わらないと考えられます。

それにより、
x=0でのグラフの傾きΔy/Δxは0であると想像できます。

 ここで、そのようにグラフの傾きが想像できるのは、このグラフの式を媒介する

という関数と、xの大きさを比べると:xが0に近いΔxになるとき、

は0に収束するからです。

このように、「グラフの式を媒介する関数」という概念が考えられます。

 以上の

のような、微分を媒介する関数を考えて微分の計算ができます。この様な、「微分を媒介する関数」の概念を数学的に整理すると、合成関数の微分の公式に導かれます。

 

【合成関数の微分の公式の定義】

 合成関数の微分の公式は、以下の式で表現すると、正確、かつ、分かりやすく定義されます。

合成関数の微分の公式は、以下の様に微分の計算を楽にするときに使う公式です。

合成関数の微分の公式は:

(1)その変数の値gに対して、(df/dg)=f’(g)の有限の値の確定した値の微分係数が存在し(微分可能)、

(2)その変数の値xに対して、(dg/dx)=g’(x)の有限の値の確定した値の微分係数が存在する(微分可能)、

という前提条件が成り立っている場合に成り立つ公式です。

(定義おわり)

 

(合成関数とは)

 そもそも、「合成関数」とは何なのか、という問題があります。

 

微分積分学入門」(横田 壽)の21ページ近くに、合成関数の定義が書いてあります。

(注:横田教授が芝浦工業大学を退官したため、この教科書を無料で掲載するWebページが無くなりました。この本は書店で購入できます。

 

それ以外に、高校2年生が勉強するのに適切な、書店で購入できる微分積分の参考書は:

「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円

が内容がわかり易くて良いと思います。

 

合成関数(composite functions)
 関数どうしのつなぎ方として,
合成法則(composition) とよばれる方法について考えます.
まず, f(x) とg(x)2 つの関数を用意します.
次に任意のx に対して規則g を用いて1 つの実数g(x) を取り出します.
もしこのg(x) が関数f(x) の定義域に入っていれば,
規則f を用いて1 つの実数f(g(x)) を取り出すことができるでしょう.
ところで,この実数f(g(x)) は何なのでしょうか.
もしg(x) の値域がf(x) の定義域に含まれていれば,
g(x) の定義域内の各数x に対して, f(g(x)) を作ることができます.
これはg(x) の定義域内の各数x に対し,ただ1 つの実数f(g(x)) を定める規則と考えられます.
よってこの規則をf とg の合成関数(composite function) といい,
f ◦ g で表わすと(f ◦ g)(x) = f(g(x)) となります.

 

以下に合成関数の例をあげます。

 上の式はxの関数hを合成関数の形で表現しました。

関数hは、gというパラメータ関数を使って、式1と式2とであらわした、結局は式3の形のxの関数です。

hは、式1の形と式3の形との2つの形の式であらわすことができます。

 この関数hは、以下の形の合成関数の形であらわすこともできます。

 式3の形の関数hは、sというパラメータ関数を使って、式4と式5であらわすことができます。

hは、式3の形や式4の形であらわせました。

式3で表されるxの関数hは、パラメータ関数 g(x) や s(x) を自由に選ぶことで式1や式4の形やその他の形の無限に多くの形であらわすことができます。

(合成関数とはの説明終わり)

 

(合成関数の微分の公式の意味)

以下の合成関数の微分の公式:

は、関数f(g)とg(x)があり、その関数の合成関数の、

y=f(g(x))=h(x)

という関数を作った場合に、

変数xのある値xにおいて、変数gの値が定まり、

それらの各変数の値において、

f’(g)=(df/dg)と、

g’(x)=(dg/dx)との積が、

h’(x)=(dh/ dx)になる、

という公式です。

(変数の他の値の場合については、その変数値毎に考察する公式です)

 

どの関数f(g)とg(x)を使って合成関数を作っても、公式の成立条件が満足されれば、公式が成り立つ、という公式です。(事例2を参照)

 

この公式には一定の縛り(成立条件)があります。それは:

(1)その変数の値gに対して、(dh/dg)=f’(g)の有限の値の確定した値の微分係数が存在し(微分可能)、

(2)その変数の値xに対して、(dg/dx)=g’(x)の有限の値の確定した値の微分係数が存在する(微分可能)、

であるという前提条件です。

 

「関数が微分可能(有限の値の確定した値の微分係数が存在する)」

という意味は、

「関数が、その変数のその値に限って、その変数で微分可能であれば良く、その変数のその他の値での関数の微分可能性は関係しない」

という意味です。

 

【合成関数の微分の公式の本質が見えない形の表現の問題】
 合成関数の微分の公式が以下の式で表現されることがあります。

(式1):

この表現方法には問題があります。

(1)第1の問題点:

 式1のように表現すると、変数hとxとgの間の関係をあらわす式だと誤解されやすい点が第1の問題です。

 この式1で表現されると、合成関数の微分の公式は、変数の間の関係式の様に見えてしまいます。しかし、そうでは無く、関数の微分係数の間の関係式なのです。

右辺の(dh/dg)という表現の意味は、hをgであらわす関数f(g)が存在し、

h= f(g)と表せる関数関係があるという意味を持ちます。

また、その関数の微分(df(g)/dg)が有限の値の確定した値の微分係数を持たなければなりません。

(dg/dx)という表現の意味は、gをxであらわす関数g(x)が存在し、

g=g(x)と表せる関数関係があるという意味を持ちます。

また、その関数の微分(dg(x)/dx)が有限の値の確定した値の微分係数を持たなければなりません。

 それらが成り立つことが、合成関数の微分の公式が成り立つ大前提です。

 

(2)第2の問題点:

  式1の左辺の(dh/dx)という表現の意味は、hをxであらわす関数h(x)が存在し、

h= h(x)=f(g(x))と表せる関数関係があるという意味を持ちます。

左辺の (dh/dx)のhが関数の名前を表すと解釈すると、右辺の(dh/dg)のhは、左辺の関数h(x)とは異なる名前の関数f(g)を表しています。

同じ名前で異なる関数を表すという矛盾があります。

 

 合成関数の微分の公式は、関数の関係を表していますが、式1の表現は、関数値の微小量の変化の間の関係で関数関係を表していて、関数が存在するという公式の大前提が分かりにくい表現になっています。

 

(3)関数値の名づけ方がおかしい問題:

  式1で関数値を表すと、異なる関数の合成関数の微分が区別されない表現になり、

h=f(g)と、

h=k(g)との

2つの異なる関数の合成関数の微分が、

いずれも、

(式1):

であらわされることになり、異なる関数を同じ記号hで表すことになってしまう混乱がある問題があります。

 この問題を改善して、hが特定の関数をあらわすことを明確にするために、

例えば、変数gとxの間に

という関数の関係がある場合の、

2つの関数のグラフ

と、

との、関数毎の微分の公式を、

というようにあらわした方が分かりやすいと考えます。

 

しかし、この式でも、

という変数変換がされた前後の関数を同じ記号hで表しています。

つまり、

右辺の関数

と定義し、左辺の関数

と定義し、

2つの異なる式、

と表される関数と、

と表わされる関数(合成関数)を同じ記号

で表すという違反を犯しています。
関数とは変数と関数の値との関係をあらわすものなので、変数が別の新変数に変換されると、その関数の値と新変数との間には新しい関係が生まれ、その新しい関係を表す新しい関数は、元の変数における関数とは異なります。)

 

これらの問題がある根本的な理由は:

(式1):

には、右辺のdhの表現には、dhが関数値h=f(g)と表すことができる関数fの関数値の変化量をあらわしているという、公式が対象にする関数fが存在するという大前提の情報が式に含まれていないこと。

また、式1の左辺のdhの表現には、dhが、公式が対象にする大前提の合成関数の関数h=f(g(x))=h(x)の変化量を表しているという、公式が対象にする合成関数hが存在するという大前提をあらわす情報が含まれていないこと。

にあります。

 そのように、合成関数の微分の公式が個々の関数に係る公式であるという、関数の情報が式1には含まれていないため、hx座標平面上の2つのグラフの微分係数を、この公式で表現しようとすると、

hがそれぞれのグラフのh座標(関数の値)の変化量を表すという情報が式1には含まれていないので、

その2つのグラフのどちらの微分係数も、

(dh/dx)という同じ式であらわすしか無いというおかしな事態が生じてしまうのです。

 

 このように、変数を変換する前の関数と後の関数を同じ記号hで表す違反があり、また、対象にする関数の情報も含まれていないので、式が分かりにくく、

「意味不明だ」「疑わしい公式だ」と言われるかもしれませんが、、、

関数の出身元(関数値)を見やすくするために、関数の定義の違反を犯ししてでも同じ記号を使う表現を容赦して欲しいと思います。

 

(しかし、この表現によって、関数が、変数と関数値の間の関係を表すと教わったばかりの学生に対して、合成関数の微分の公式を教えるこの場で、関数が、あたかも関数値で定義されるような、関数について教わった定義を否定するような事を教えることで、合成関数の微分の公式が分からないのと同時に、ちゃぶ台返しによってひっくり返された、関数の定義もわからなくなる、という弊害があるかもしれません。)

 

 上の式で合成関数の微分の公式を表現すると、関数が変数と関数値の間の関係を表すことがしっかり身についている学生には、「合成関数の微分の公式が関数の間の関係を表しているとは思えない」と言われるかもしれませんが、、、

 合成関数の微分の公式は、関数の間の関係を表す公式です。そして、合成関数の微分の公式の微分の式で使う全ての変数yやxやその他の媒介変数g同士は、必ず、その変数を他の変数であらわす不変な関数で結ばれているという大前提があります。

その関数はどの式であっても良いですが、計算の途中で変化することが無い、いつも変わらない関係式であることが微分の計算の大前提です。

 

【合成関数の微分の公式の証明】
 合成関数の微分の公式が分かるために、以下のように、

ごまかしが無い正しい証明をすることで、合成関数の微分の公式の例外が出る条件がはっきりし、合成関数の微分の公式の意味が分かるようになります。

 

《証明開始》

合成関数の微分の公式を以下の式で表すことにします。

(f(g)=h(x)という関係を強調するために、以下の説明では、あえて、f(g)とh(x)を混同して説明する。)

この式で、左辺のhは、

h=f(g(x))=h(x)という合成関数をあらわしています。

また、右辺の導関数

のhは、

h=f(g)という、左辺の関数hとは異なる関数をあらわしています。

 

(1)先ず、h=f(g)をgの関数と考え、hはgが変化したときにどのくらい変化するか調べるため、h=f(g)をgで微分する。

h=f(g)がgで微分可能

(関数fの関数値hの微小な変化量をΔhであらわし、関数fの変数gの微小な変化量をΔgであらわしたときに:

(Δh/Δg)の極限が有限の値になる)

なら、

Δhが以下の式に近似できる。

(Δgが0に近づくと正確に成り立ちます)

(2)その場合に、変数xの変化の結果変化する合成関数f(g(x))の関数値の微小な変化量Δhに関して、以下の式が成り立つ。

(証明おわり)

 

《簡単でわかり易い証明》

 「微分積分学入門」(著者:横田 壽)の75ページ近くに、もっと鮮やかな合成関数の微分の公式の証明を見つけました。それは、以下のようにする証明です。

(証明開始)下図を参照のこと。

「h = f(g)のgによる微分が存在し(確定した有限値になる)、

g(x)のxによる微分が存在する(確定した有限値になる)」場合:

 (証明おわり)

 

(補足1)

上の図を参照しつつ、以下の様に、ΔxからΔg、次にΔhを見積もることで証明しても良いです。

《証明開始》

 

(証明おわり)

 

(補足2)

上の証明において、

Δhの値を

という式に近似しているのが気持ちが悪いと言って、

以下の様に、Δhを全く近似しないで表すために、以下の関数b(g,Δg)を使って計算する証明方法もあります。

(f(g)=h(x)という関係を強調するために、以下の説明では、あえて、f(g)とh(x)を混同して説明する。)

 

《証明開始》

 これを使って以下の様に計算できます。

(証明おわり)

 

(補足3)

 全く近似しない厳密な証明をしたいならば、以下の、伝統的な、厳密な証明の方がスッキリした証明だと思いました。しかしながら、以下の証明を、全くごまかし無く記載した「完全な証明」に書き換えると、関数の定義を導入する必要がある等のけっこうゴタゴタした証明になりました。そのため、上の証明の方がスッキリした厳密な証明方法かもしれません。

 

《伝統的な厳密な証明》

(証明おわり)

 

《完全な証明》

 上の「厳密な証明」では、大前提の関数の役割が顕わでなく、関数値の関係しか記載されていないので、未だ、気持ちの晴れない証明だと思います。 

 そのため、以下の証明の様に、関数の役割を顕わに示す証明に書き換えました。

 

(合成関数の微分の公式の厳密な定義)

 変数xのある値xとその近傍の値において、変数tが、変数xのある関数gによって、以下の式1で表される変数間の関係が定まっているものとする。

変数tのその値tとその近傍の値に対して関数値yが定まる、式②aで表される関数fの関係も定まっているものとする。

このとき、式①の関数によって、変数tを変数xに置き換える変数変換をすると、

その値と近傍の値の変数xが、その値の関数値yを定める、以下の式2で表される合成関数が表される。

この変数変換により、関数fを合成関数に変換すると、

関数値yの微小変化は以下の式3であらわされる。

すなわち、変数tの微小変化Δtに対応して定まる関数fの微小変化Δy=Δf(t)は、

式3であらわすように、変数xの、その変数値からの微小変化Δxに対応して定まる合成関数f(g(x))の微小変化Δyと同じである。

 ここで、変数tの微小変化Δtは、変数xの微小変化Δxに対応して定まっている。その変数xとtの対応関係は関数gで結ばれて定まっている。

 

 このとき、以下の式のように、変数xのその値において、関数gが変数xによって微分可能であり、

かつ、

その値の変数xに対応する変数tの値において、

関数fが変数tによって微分可能であるならば、

以下の合成関数の微分の公式であらわされる関係がある。

 すなわち、関数値yを変数xで定める合成関数は、その合成関数を変数xで微分した微分係数は、

関数fを変数tで微分した微分係数と、

関数gを変数xで微分した微分係数の積に等しい関係がある。

 これが、合成関数の微分の公式の厳密な定義です。

 

(証明開始)

 次に、これを証明します。

(1)

 先に式3で表したように、変数xがΔxの値で微小変化した場合の合成関数f(g(x))の関数値yの微小変化量Δyは、変数xに対応して変数tが微小量Δtだけ微小変化した場合の、変数tの関数fの関数値yの微小変化量Δyと等しい。

 

(2)

 関数fの微分係数の定義により、関数fの関数値yの微小変化量Δy=Δf(t)は、以下の計算により、式4で表せる。

この式4が成り立つ場合は、df/dtが有限の値を持ち関数fが変数tで微分可能な場合である。

(注意)

 この式④は、誤差関数 ε1 が、Δt≠0の場合だけで定義されているので、式④も、Δt≠0となる場合だけで有効です。この式④の有効範囲を拡張するため、Δt=0の場合に定義されていなかった誤差関数 ε1 を、Δt=0の場合にε1=0と定義する。

----------(備考)------------------------------------

 Δt=0の場合に ε1 が0になるのは、誤差関数 ε1 がΔtを変数とする連続関数(Δt=0でも定義されている)なら当たり前の事ですが、誤差関数 ε1 は、導関数(df/dt)と同様に、必ずしも連続関数にはならないのではないかと疑ったので、また、誤差関数が連続関数にならない場合には「合成関数の極限の裏切り」の図3(式3)のように異常なことがおこると困るので、追加することにした定義です。

 例えば、以下の様に、t=0で微分可能な関数f(t)の導関数が、t=0で不連続な関数になる場合等もあるから油断できないからです。
(連続関数にならない導関数の例)

(注意)この導関数の計算は、合成関数の微分の公式が証明された後で、合成関数の微分の公式を使って計算してください。ここでは、そういう関数があるという事を例示するだけに留めます。

t≠0の場合:

t=0の場合: f(0)=0,

 

この関数はt=0及びその近傍で微分可能で、その導関数は、

t≠0の場合は、

になり、tが0に近づくとー1と1の間を振動します。

この導関数が含むcos(1/t)の関数が以下のグラフであらわす関数になるからです。

そのため、この導関数はt=0で不連続です。

t=0の場合には、

というように、0になります。

この導関数は、t=0でこのように有限の値を持ちますが、t→0の近傍で-1から1の値の間を振動して、f’(0)の値に収束しないので、連続ではありません。

 ただし、f(t)がこの関数の場合でも、誤差関数 ε1 は連続関数になりそうに思いますが、、、また、誤差関数 ε1 がt=0で無限大にならない限り、その誤差関数が非連続であっても式④は成り立ちますが、、、

-----------(備考おわり)-----------------------------

 

この定義の追加によって、式④が、Δt=0の場合にも使えるようになりました。

 ここで、式④には矛盾が無いことを以下で説明します。

Δt=0の場合に誤差関数 ε1 は無限大では無いので、 ε1Δt=0です。また、df/dtが無限大では無い(微分可能)であるので、(df/dt)Δt=0です。

よって、Δt=0の場合に式④の右辺は0になります。

 

一方、df/dtが無限大では無いので、Δt=0の場合にΔy=0になり、式④の左辺は0になります。

よって、Δt=0の場合に式④は、矛盾無く成り立ちます。

(変数tの値tでdf/dtが無限大になる様に、微分可能では無い場合には、又は、Δt=0で誤差関数 ε1 の値が無限大になる様な場合では、Δt=0の場合にΔy≠0となるような事が起こり得る )

 

 以下の図の場合などでは、Δxが0で無い場合にΔt=0になってしまいますが、その場合にも式4を使うことができ、

Δx→0の場合の、Δx≠0の場合にΔt=0 となる場合を含む、全ての場合に式4を使うことができます

 

 

(3)

関数gの微分係数の定義により、関数gの関数値tの微小変化量Δt=Δg(x)は、以下の計算により、式5で表せる。

この式5が成り立つ場合は、dg/dxが有限の値を持ち関数gが変数xで微分可能な場合である。
 この式5のように、関数gの関数値tの微小変化量Δtは、関数gの変数xによる微分係数(dg/dx)に変数xの微小変化量Δxを掛け算した値にほぼ等しい関係があり、

その式の誤差を ε2 で表す。

 

(4)

Δtが式⑤で表されるので、

Δx→0 の場合に、

Δt→0 になる。

そのため、

 

になる。
-------(注意)---------------
しかし、
Δt→0 の場合に、
Δx→0 になるとは限らない。
例えば、以下の図の関数t=g(x)の場合では:

Δt→0 の場合に、
Δx→-2~2 になる。
----(注意おわり)-------------------------------

(5)
 次に、合成関数の微小量Δy=Δf(g(x))を以下の式で計算する。
 先ず、式3により、変数xの微小変化量Δxに対応する合成関数f(g(x))の関数値yの微小変化量Δy=Δf(g(x))は、変数tの微小変化量Δtに対応する関数f(t)の関数値yの微小変化量Δf(t)に等しい。
 そのΔf(t)に式4を代入することで、以下の式が得られる。

すなわち、合成関数の微小変化量は、その変数xの微小変化量Δxに対応付けられた変数tの微小変化量Δtに対応する、関数f(t)の関数値の微小変化量Δyと等しく、上の式で表わされる。

 また、関数fの関数値yの微小変化量Δyは、その関数fの変数tによる微分係数とΔtとの積とほぼ同じであり、その式の間の誤差が ε1 Δtであらわされる。

 その変数tの微小変化量Δtは、式⑤によって、変数xの微小変化量Δxと結び付いている。その式⑤を代入することで以下の式が得られる。

よって、合成関数f(g(x))を変数xで微分した微分係数は、

関数f(t)を変数tで微分した微分係数と、

関数g(x)を変数xで微分した微分係数の積に等しい。

(証明おわり)

 

《間違えやすい証明》

 以下の証明方法については、以下の証明の様に場合分けをせず、一方の場合について証明していないため公式が証明できていない偽の証明が流布しているので注意してください。

(また、その偽の証明を押しつけられたからと言って合成関数の微分の公式を嫌いにならないで欲しいと思います。)

合成関数の微分の公式は、以下の様に表現するのが正しいのです。

小平邦彦「[軽装版]解析入門Ⅰ」の114ページに、合成関数の微分の公式を偽の証明にしないように注意すべき点が明確に、かつ、詳しく説明されています。

 

(証明開始)

 

例えば、以下のような関数g(x)の場合にk=0になります。

 

この場合は、以下の図の様な場合があることを考慮し:

以下の条件が成り立つ場合に:

一方、k≠0の場合は:

(証明おわり)

 

(補足4) 

 合成関数の微分の公式は、以下のように式の項を作っている関数のかたまりを微分を仲介する変数にして、その変数で微分して、後で、その関数のかたまりを微分するという計算を可能にします。

(検算)この答えが正しいか否かを、以下のグラフを思い描いて確認してください。

想像したグラフの傾きがマイナスであることと、微分計算結果の式がマイナスになることが一致しているので、この計算結果が正しそうだと確認できました。

(検算おわり)

 

 合成関数の微分の公式を使うことにより、微分の計算がだいぶ楽になる。合成関数の微分の公式は、微分の計算にとって、生物が必要とする空気のように必要な公式です。


【合成関数の微分の公式の成立条件】

 この合成関数の微分の公式には縛り(成立条件)があります。

それは、

「h ≡ f(g)のgによる微分が存在し(確定した有限値になる)、

g(x)のxによる微分が存在する(確定した有限値になる)」

という前提条件です。

 

---(定義2.1 「微分積分学入門」(横田 壽)67ページ---

関数f(x) がx0 を含むある区間で定義されているとき,極限値

が(有限な値で)存在するならば,
関数f(x) は, x = x0 微分可能(differentiable) であるといいます.
また,この極限値A を点x0 における微分係数といい,

で表わします.

-----(定義おわり)---------------------------

 

この、有限の微分係数が(有限な値で)存在する(微分可能)という前提条件は、いわば、

「式を0で割り算する計算をしてはいけない」

という計算の縛りと同じ様な意味を持っています。

 

 すなわち、「微分可能」という前提条件は、

「0で割り算しない場合に限る」という前提条件 、

言いかえると、

「計算の違反が無い計算に限る」という前提条件、

を加えて微分の式を書くことです。

 

 そういう「万能の条件」を正しく組み込んで計算するならば、計算の自由度が高くなります。

 『合成関数を構成する2つの関数が何れも「微分可能=微分係数が有限の確定値になる」であるように関数の変数の定義域を定める』という前提条件付きで、パラメータ関数 g(x) や s(x) を自由に選ぶことができます。

 

その様に計算の自由度を高くするから合成関数の微分の公式が成り立つのだと考えます。

 

《媒介変数を利用した証明》

変数xや関数h(x) を媒介変数tであらわして、微分を計算してみます。

ここで、関数p(t)は1つのtに対して1つのxを対応させる関数です。そのため、以下のグラフは関数p(t)ではあらわせません。その理由は、1つのtに対して複数のxが対応している部分があるからです。

ここで、以下の関数t=g(x)を考えます。

ここで注意すべき事は、上のグラフは関数g(x)で表せるという事です。

 

 次に、媒介変数tを使って以下の計算をします。

ここで、以下の極限を考えることができます。

そのため、関数p(t)であらわせるグラフの部分の端で、g'(x)=0となる部分も含めて、以下の式が成り立ちます。

(関数p(t)で表す事が出来なかった関数g(x)のグラフの部分)

g'(x)=0になる部分でのf(g(x))=h(x)は:

その部分でg(x)=tの値が変わらないので、

f(g(x))=f(t)の値も変わらず、

h'(x)=0

になります。

よって、その関数の部分でも、以下の式が成り立ちます。

よって、関数g(x)で表せるグラフならば、上の式が成り立つ。

(証明おわり)

 

【合成関数の微分の事例】

(事例1)合成関数の微分の公式はどこまで使えるか

以上の関数f(x)を、関数g(x)=tで表される媒介変数tで表した関数をh(t)とすると、関数h(t)は、

x≧0

の範囲では、以下の式であらわす事ができる。

関数f(x)をxで微分すると以下の式のように1になる。

関数f(x)はtの関数h(t)と等しい。

関数h(t)の変数tを関数g(x)に置き換えてあらわした合成関数h(g(x))を合成関数の微分の公式で微分する。

ここで、t=0の場合には、

h'(t)が無限大に発散するのでh(t)が微分不可能である。

すなわち、t=0に対応するx=0の場合にh(t)が微分不可能である。よって、h(t)が微分可能な場合に限って微分した結果は:

以上の計算の様に、h(t)とg(x)が微分可能な場合であるx>0の範囲では、合成関数の微分の公式の成立条件が満たされる。

そして、その条件の下で、合成関数の微分の公式を使ったh(g(x))の微分の計算結果が1になった。

これは、関数f(x)をxで微分した結果と一致した。

(事例1おわり)

 

(事例2)どんな関数を使っても合成できる

 先の事例1を更に発展させます。

 関数h(t)と、媒介変数tを表す関数 t=g(x)を合成して、関数f(x)をあらわします。

また、関数f(x)がxとなる場合で、関数 h(t)=√t とする場合を考えます。

この関数g(x)は、Xが0より小さい定義域の場合と0より大きい定義域の場合とでは、関数を表す数式が異なる事に注意してください。

(この様に関数は、定義域(の部分)と数式を組み合わせて定義します。数式が定義域を定めるというのではありません。)

関数 f(x)は、この関数g(x)と以下で示す関数h(t)の合成関数です。

関数 h(t)は、以下のグラフで表せます。

 合成関数の微分の公式を利用して、この合成関数h(g(x))を変数Xで微分する場合に、x=0でt=g(0)=0の場合には、関数h(t)は微分可能ではありません。

そのため、x=0でt=0の場合には、合成関数の微分の公式が適用できません。

それゆえ、x=0でg'(0)=0ですが、そのg'(0)=0がh'(t)に掛け合わされる事は無く、

合成関数の微分の公式で適用可能な条件を満足する場合での微分結果は、いつでも1になります。

(事例2おわり)

 

(事例2の補足)合成関数の微分の公式の拡張可能性

 この事例2では、t=0,(x=0)では関数h(t)が微分不可能なので、x=0の点では、合成関数の微分の公式が適用できませんでした。

しかし、このt=0,(x=0)の点でも合成関数h(t)は存在し、また、関数h(t)を変数xで表すとh(t)=f(x)=xなので、

合成関数h(t)は、t=0,(x=0)となる点で、xで微分可能です。

すなわち、t=0,(x=0)となる点では、

dh(t)/dx=1,
であって解が存在します。
すなわち、
(条件1)その点で合成関数h(t)や媒介変数tの関数t=g(x)が連続である場合に。
(条件2)その点の近傍まで、合成関数の微分の公式の解:
dh(t)/dx=f'(x)
が求められる場合に。
(極限操作)
その点に限りなく近づける、
x→0
の極限で
dh(t)/dx=f'(x)
の極限があれば、
その極限を、
x=0での微分の解f'(0)
として解を求める事ができます。
(結論)
 この条件が満たされる場合に、極限操作をする事によって、合成関数の微分の公式が適用出来ない範囲まで拡張して関数h(t)=f(x)の微分を求める事ができます。
(この拡張可能性は安易に使わず、これが可能である事を証明してから使ってください)

 

(事例3)

 以下の関数f(x)を、以下の関数g(x)の合成関数と考えて合成関数の微分の公式が使えるかどうかを考える。

関数f(x)は、

-1≦x≦1

の範囲では、以下の式の合成関数であらわす事ができる。

この関数f(x)をxで微分する。

この関数f(x)を合成関数の微分の公式で微分する。

ここで、cos(g)=0の場合には微分できないので、x=sin(g)=±1の場合も微分できない。

よって、微分結果は:

以上の結果、-1<x<1の範囲では、合成関数の微分の公式が適用できて、合成関数の微分の公式を使って微分できた。

(事例3おわり)

合成関数の微分の公式は、どんな関数g(x)を使って合成した関数でも、微分適用可能な範囲を狭くしていく事で、

適用可能でした。

 

 これが意味することは、合成関数の微分の公式は、関数f(x)を微分するために、任意の関数g(x)で定義される媒介変数tが使えるという事です。その媒介変数tで表した関数h(t)=f(x)を使って、媒介変数tでの微分を介して、関数を微分する事ができる事を表した公式です。

 

微分可能で無いとき起きる不思議な現象】

 次に、合成関数の微分の公式に関連することとして、以下の2つの注意の事例にあるように、「2つの接するグラフが接点における等しい微分係数を持つ」ことが、グラフの座標変換によって変わってしまう、ことが有り得ます。

 

 そのようにおかしな事が起きても、それは、合成関数の微分の公式が間違っているわけでは無く、それは微分の本質的な問題であると正しく認識して下さい。

 合成関数の微分の公式が成り立つ範囲では、その様なおかしな事は起きません。そのため、合成関数の微分の公式の適用範囲が、すなわち、おかしな事が起きない、計算の秩序が守られる範囲を定めているとも言えます。

 

 その現象が起きたとき、合成関数の微分の公式の前提条件である「微分可能」が成り立っていないので、合成関数の微分の公式の適用範囲の外で、そういう不思議な事がおこります。

 

(注意1)

以下の2つのグラフが、x=0で微分係数が等しいです。

この場合、合成関数の微分の公式によって、これらの関数を他の変数tで微分した微分係数も等しくなるでしょうか。

以下で、この合成関数を詳しくしらべてみます。

xのtによる関数を以下の式で定義してみます。

グラフの関数を変数tであらわす各関数を計算します。



次に、合成関数の微分の公式を適用して各関数の微分係数を計算してみます。



x=0の場合に、(dx/dt)の値が有限で無いので、
xがtで微分可能ではありません。
そのため、合成関数の微分の公式の適用外になります。
x=0の場合に、合成関数の微分の公式は0に無限大を掛け算する計算になっています。

x=0で、両関数の微分係数が同じであっても、
その場合に合成関数の微分の公式が適用できないので、
x=0で、両関数の微分係数(dy/dt)は、
合成関数の微分の公式は両関数の微分係数が等しくなることを保証しているわけではありません。
(合成関数の微分の公式から受ける印象が私たちを裏切っています) 

一方、x=0で、これらの合成関数は、上図のグラフのようにしっかり定義されていて、x=0においても微分係数が定義できています。
そして、x=0で、両関数の微分係数(dy/dt)が異なっています。

 なお、ある変数の値において公式が適用できない関数を含む場合の合成関数の微分の公式は、
公式の適用条件の「各関数の微分可能性」が守られている変数の値の範囲内ならば、その値がどの値の場合においても成り立っています。
例えば、変数xが以下の図の関数で変数tに変換される場合:

この図の関数は、x=1に対応するt=0では微分不能ですが、x=0に対応するt=-1では微分可能ですので、t=-1では、合成関数の微分の公式が成り立っています。

この関数によって、先のXY平面上でx=0の点で接する2つのグラフは、tY平面上に写像したグラフにおいても、グラフが共通の点を持つt=-1の位置において、2つのグラフは同じ微分係数(dy/dt)を持ち、その点で接しています。


(注意2)

以下の曲線と直線が、x=1の点で接しています。

その接点で曲線と直線の微分係数が等しいです。

このグラフの座標系を以下の様に変換していきます。

上図には、2つのグラフそれぞれに対して、dz/dxの式を記載しました。

dz/dxは、各グラフ毎の、zを与える関数(z=f(x)やz=p(x))を変数xで微分することを表しています。

そのため、グラフ毎に異なる2つの式の、dz/dx=f’(x)と、dz/dx=p’(x)の式があります。

 

ここで、以下のグラフの関数で、変数xを変数tに変換します。

 

こうして、当初の曲線と直線が、上図の折れ線と直線に変換されました。

この折れ線の折れ点では微分が不可能です。

合成関数の微分の計算では、その点でds/dtが有限な値では無いので、その点では合成関数の微分の公式が適用できません。

そして、折れ線では、折れ点で微分係数が存在しません。

(そもそも、折れ線の左右の微分係数がー1と1という異なる微分係数の値を持っていますので、折れ点では微分係数が定まりません)

 

折れ点で折れ線とz=0の直線(微分係数dz/dt=0)とが接触していますが、折れ点の微分係数がそれと同じであるとは言えません。

 

 この例では、当初は接触点において微分係数が等しかった2つのグラフが、座標系を変換して形を変えた2つのグラフに変換すると、その接触点で、微分係数が異なるグラフに変わりました。

 

(合成関数の微分の公式の本質)

 合成関数の微分の公式の本質は、

が成り立つことにあるのでは無く、以下のことが、本質ではないかと考えます。

 

(1)上の式の関係は通常は成り立っているものと考えるが、

(2)その式が成り立たない場合があることを、合成関数の微分の公式が示している。

その問題を生じる必要条件は、上式の各微分係数要素(導関数要素と呼ぶ)の中に、微分可能で無いものがあること(有限の値に確定した微分係数を持たない)

(問題を生じない十分条件は、全ての導関数要素が微分可能であること)

であることを、合成関数の微分の公式が教えている、

と考えた方が良いと思います。

 

例えば、変数xで表される2つの関数y1とy2があって、

変数xのある値x0における、2つの関数y1とy2のxによる微分係数が、

という式であらわされて、等しかったとします。

このとき、他の変数tで微分した場合に、

が成り立つと普通は考えますが、それが成り立つための1つの十分条件は、

という合成関数の微分の公式に記載されたその他の導関数要素であるdx/dtが、x=x0の点において微分可能であることである。

 

これが、合成関数の微分の公式の本質ではないかと考えます。

 

なお、

 は、

が成り立つための十分条件では無い。

その理由は、その他の導関数要素のdx/dtがx=x0で無限大になれば、元の導関数要素のdy/dxがx=x0で0であることの影響が打ち消されるからである。 

 

リンク:

高校数学の目次

第5講3節 和と積の公式 練習問題(7)

佐藤の数学教科書「三角関数」編の勉強

 

(以下の問題は、「5講1節(2)覚えておく計算方法」の応用問題です。

 

【問1】
sinA+sinB=2/3,cosAcosB=1/2のとき、

sinAsinBの値を求めよ。

 

【解答の心構え】

(1)先ず考えるべきことは、問題をもっとやさしい問題に変換できないかを考えること。

 今回は、求める式がsinAsinBという単純な式なので、求める式をこれ以上にはやさしくはできないと考える。

 

(2)次に考えることは、なるべく、加法定理関係の公式を使わないで、正弦定理や余弦定理や、「5講1節(2)覚えておく計算方法」を使った見通しが良い解答が無いかを考える。

 その結果、以下に説明するように、加法定理も、和と積の公式も使わないで答えが得られるが、それが正解です。

 

(解答の方針)

この問題は、「5講1節(2)覚えておく計算方法」を使うと式が単純になることを思い出して、sinAsinB=xとあらわして、xの方程式を書いて、xを解く。

 

 先ず、値がわかっているcosAcosB=1/2と、未知数sinAsinB=xとを、「5講1節(2)覚えておく計算方法」にあてはめて、以下の式を書く。

cosAcosB-sinAsin

=cosAcos

+(cosAsinB-cosAsinB)

-sinAsin

=cosA-sin

 次に、値がわかっているsinA+sinB=2/3を式の中に組み込めるように式を変形する。

=1-sinA-sin

=1-(sinA+sinB)+2sinAsinB

 

以上の計算で、以下の方程式が書けた。

cosAcosB-sinAsin

=1-(sinA+sinB)+2sinAsinB

 

この方程式の各項を、定数あるいは未知数xに置き換えてxの方程式を書く。

(1/2)-x=1-(2/3)+2x

+2x+1-(2/3)-(1/2)=0

+2x+(36-16-9)/36=0

+2x+11/36=0

(x+(11/6))(x+1/6)=0

x=-11/6, 不適(|x|=|sinAsinB|≦1であるため)

or x=-1/6

∴ sinAsinB=x=-1/6

(答おわり)

 

リンク: 

高校数学の目次

 

第5講3節 和と積の公式 練習問題(6)

佐藤の数学教科書「三角関数」編の勉強

 

(以下の問題は、「覚えておくべき三角形の公式」の応用問題です。

【問1】△ABCにおいて、次の等式がなりたつことを証明せよ。

【解答の心構え】

 先ず考えるべきことは、問題をもっとやさしい問題に変換できないかを考えること。

図形の問題は図を書いて考えること。

(今回は図を省略するので、図は想像して描いてください)

 

(解答の方針)

この問題は、式1の右辺が3つの項の掛け算だから難しい。掛け算を解消するように問題を変換する。

 

式1の右辺をSとして、以下の式に変形する。

三角形の公式により式を変形する

これは、式1の左辺である。(証明おわり)

 

リンク:  

高校数学の目次

 

三角形の三角関数の公式

以下の、三角形の三角関数の公式を直ぐに導き出せるようにしておくと便利です。

 

【問1】三角形ABCの角度の以下の公式を証明せよ

 

 

(証明開始)

sin((A+B-C)/2)=sin((A+B+C-2C)/2)

=sin((π/2)-C)=cosC

(証明おわり)

 他の式の証明も同様である。

 

【問2】三角形ABCの角度の以下の公式を証明せよ

sin(A+B-C)=sin(2C)

sin(B+C-A)=sin(2A)

sin(C+A-B)=sin(2B)

 

(証明開始)

sin(A+B-C)=sin(A+B+C-2C)

=sin(π-2C)=sin(2C)

(証明おわり)

他の式の証明も同様である。

 

【問3】三角形ABCの角度の以下の公式を証明せよ

cos(A+B-C)=-cos(2C)

cos(B+C-A)=-cos(2A)

cos(C+A-B)=-cos(2B)

 

(証明開始)

cos(A+B-C)=cos(A+B+C-2C)

=cos(π-2C)=-cos(-2C)=-cos(2C)

(証明おわり)

他の式の証明も同様である。

 

上の公式を直ぐに導き出せるようにしておくと、三角形の三角関数の式の証明がやさしくなります。

 

リンク:

高校数学の目次

 

三角形の等式の証明の難問の別解(三角関数の和と積の公式)

佐藤の数学教科書「三角関数」編の勉強

 

【難問】

三角形ABCにおいて

2cosA+cosB+cosC=2 (式1)

が成り立っていれば、

2sinA=sinB+sinC (式2)

が成り立つことを証明せよ。

 

この問題は、「第4講2節 加法定理(等式の証明(1))」で解いた問題です。

 【重要な注意】

三角関数(特に三角形の角度の三角関数)の問題を自由に解くためには、三角関数の式を、なるべく、ベクトルの式やxy座標の式に変えて計算する必要があります。

 

(問題をより易しい問題に変換してから解くこと)

「第4講2節 加法定理(等式の証明(1))」のように解くのが近道ですが、

以下では、どうしても、三角関数の和と積の公式を使ってこの問題を解きたい人のために、和と積の公式を使って遠回りして問題を解きます。

 

(解答の方針)

証明すべき対象の

2sinA=sinB+sinC (式2)

を直接証明しようとする前に、この式を、できる限り、問題をかみくだいて易しい問題に変換しておいてから問題を解きます。

 

式2は、3つの項の関係式であるから難しい式になっています。そのため、この式を2つの項だけであらわされる、もっと単純な式に変換しておいてから、問題を解く方針で問題を解きます。

 

また、式1についても、式2同様に3つの項からなるので難しい式です。この式1も、式2と同様に、2つの項だけであらわされる単純な式に変換して、その上で、その単純な式同士を比較して問題を解きます。

 

(解答開始)

先ず、∠A=0、又は、∠A=180°で三角形ABCがつぶれている特別な場合を考えます。

その場合でも、点B≠点Cという条件は成り立っているとすると、

0=sinA=sinB=sinC

となる。

その場合は、式2が成り立っている。

 

以下では、

∠A≠0

かつ、

∠A≠180°

の場合を考える。


式2を、以下のように変形して、もっと単純な式に変換します。

 

ここで、∠Aが180°では無いものとする。

すなわち、

であるものとする。

上の式をこの0で無い項で割り算すると以下の式が得られる。


こうして、式2は、式3のように、2つの項の関係であらわせました。

 

 次に、式1を、変形して2つの項の関係式に変換します。

 

 

ここで、

が成り立っているものとする。すなわち、∠A=0となるつぶれた三角形では無いものとする。

その場合は、この0で無い項で上の式を割り算して以下の式が得られる。

式1は、式4のように、2つの項の関係であらわせました。

この式4は、式3と同じ式です。

よって、式1と式2は同じ式3(=式4)に帰着することがわかりました。

(証明おわり)

 

【解答(その2)】

 上の解き方における式の変形の順番を変えると、以下の様にして解くこともできます。

 ただし、この解き方は、この問題だけに通用する偶然にできる解き方であって、他の問題を解く参考にもならない劣った解き方です。

 この解き方よりは、先の解き方(問題の2つの式を単純化する変形をして式を比較する、式の分析をする)の方が、見通しが良く優れた解き方です。

 

(解答開始)

 先ず、式1を、変形して2つの項の関係式に変換します。

ここで、

が成り立っているものとする。すなわち、∠A=0となるつぶれた三角形では無いものとする。

その場合は、この0で無い項で上の式を割り算して以下の式が得られる。

式1は、式4のように、2つの項の関係であらわせました。

この式4を以下のように変形して解いていきます。

よって、式1から式2が導けました。

(証明おわり)

 

リンク:

高校数学の目次